大判例

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大阪高等裁判所 昭和25年(う)2276号 判決

弁護人は原判決は被告人が日本刀一振を不法に所持していた事実を認定したが右は誤認であつて被告人には不法所持の事実がないと主張する。

しかしながら本件日本刀が被告人の自宅から発見押收せられたものであることは被告人の自認しているところである。よつて本件の日本刀について本罪の成否を決するためには被告人が本件日本刀が自宅に存在することを認識し且つ自己の実力支配内においていた事実の有無が明らかにせられなければならない。しかるに被告人は司法警察員の供述調書で本件日本刀は自分のものでいつも奥六畳の間の押入の上の袋戸棚に入れてあつたと述べ、検察事務官の供述調書で同趣旨の供述をした外本年春の大掃除の時屋根裏の道具入れから発見し其の後奥六畳の間の押入の上にある袋戸棚に入れ保管しておつた旨の供述が記載されている。しかし、原判決挙示の証拠を綜合すれば被告人は昭和二十二年五月二十八日十七歳で父を亡い爾来毋及び姉と共に生活して来たものであるが本件の日本刀は昭和二十四年十一月二十四日被告人方奥六畳の間の押入の上にある袋戸棚から警察官によつて発見せられたものであることが明らかであり、右日本刀は父生存中から同家に存在していたことが認められる。従つて本件日本刀は被告人の単独所有に属するものでなく毋及び姉と共同で相続したものである。而して証人辻本楢義の検証現場における供述によれば本件日本刀は奥六畳の間にある西北隅の開き戸になつた押入の上の袋戸棚から出た久保警部補が手で探し出しその橫に私がおり、出て来た日本刀を見ておる。袋戸棚の中は非常にごみが一杯でくもの巣がはつていた。その中にはめつたにいらないがらくたものが入つていた。減多に使用しないものを入れてあるので私は秘密の放任された倉であると思うと述べ、押收に係る本件日本刀を検するに鞘は甚だしくはげ且つ破損し刀身も全くさびてしまつて日本刀らしい光は少しもなく一見永らく放任されていたものであることが認められる。右各事実を綜合すると被告人が本件日本刀を自分のものであると述べていることがいかなる意味であるか不明で父生存中より自宅にあつたから自分のものであると思うという意味にしか考えられない。しかも昭和二十四年の春の掃除に屋根裏で発見して袋戸棚に入れたというけれども左様な証拠もなくむしろ右袋戸棚は日本刀の入つたまま父生存中より永く手入れせずに放任されていた事実が認められる。被告人の右自供は真実に副わないものと認められ、被告人方には父生存中より本件日本刀があつたが被告人はこの事件により警察官によつて発見押收されるまでその自宅にあることを知らなかつたものと認めるのが家庭生活の実際に合うのではないか。被告人宅が右に説明した家庭の状況であるから当時僅か十九歳の少年の実力支配にあつたと認めるに足る証拠もないのである。証人山本金蔵竹林靖介はいずれも右被告人の供述が任意になされたものであると述べているけれども、たとえ任意になされたものであつても実験法則に違背し事実に適合しない供述は証拠価値がない。証人久保房義の供述によれば刀劍を最初に自分が発見した刀劍と一緖にぼろ切れの衣類がありその底にあつたと思うと述べているので、右押收に係る日本刀と綜合すれば枕刀に使うために被告人が届出をせず放任していたというような弁解をしたとは信じられないし、もしかような弁解をしたことが事実あるにしても被告人が発見後工夫した弁解にすぎないのであつて、被告人に本件日本刀の認識があつたという証拠にならない。更に記録を精査してみても被告人の犯意を認むるに足る証拠が発見できないだけではなくかえつて証人稲本アサノ稲本八重子の各供述によつて窺えるように父死亡後同家においては同家に日本刀の存在することを誰も知らなかつたというのが本当であると考えられる。

よつて原判決には理由不備の違法があるから之を破棄し且つ直ちに判決できるものと認め刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書を適用して次の通り判決する。

本件公訴事実は被告人は昭和二十四年十一月二十四日被告人自宅において日本刀一振を不法に所持していたというのであるが、犯罪の証明がないから刑事訴訟法第三百三十六条後段を適用して無罪の判決をする。

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